アニメ「まんが日本昔ばなし」の数ある作品の中から悲しい、切ない話をまとめてみました。本記事でまとめた作品は登場人物が悲劇的な運命に見舞われ、中には救いようのない結末を迎える話も過半数存在します。
各話には作画やナレーター、そして物語と関連性のある「関連ワード」を設定しています。
「まんが日本昔ばなし」について
1976年1月(昭和51年) 〜 1994年9月(平成6年)に全国ネットで放送されたテレビアニメ。全国各地に伝わる昔からの言い伝えや、童話などを元に作られた作品も多く現在でも幅広い年齢層で親まれている。
話の舞台:(舞台となった地域名)
作 画:(作画担当者名)
声 優:(ナレーションの担当者名)
(各話のあらすじ → 感想の順にまとめています)
幽霊飴
放送時期:1990年08月11日
話の舞台:三重
作 画:三輪孝輝
声 優:市原悦子
[あらすじ・感想]
昔、三重の桑名に飴忠という飴屋がありました。
飴忠の飴は雪の様に真っ白で美味しいと評判でした。夏のある深夜、飴忠の家に「飴を一文ください」と青白い色をした一人の女が訪ねてきました。
翌朝、飴忠の親父が前日の売り上げを勘定していると銭箱に樒(しきみ)の葉が一枚入っていました。そしてその日の夜、昨夜と同じ女がまた飴を買いに来ました。
翌朝、いつもの様に前日の売り上げを勘定していると、銭箱にまた樒(しきみ)の葉が一枚入っていました。そしてその日の夜も女がまた飴を買いに来ました。飴忠の親父が女から受け取った銭を銭箱に放り投げたところ音がしません・・・。
「やっぱりあの女、親父は狐か狸か?」飴忠の親父はそう思いました。
次の日は朝から雨が降っており深夜になっても降り続いていました。
「狐か狸かしらんが、この雨じゃ流石に今晩は諦めたかもしれんな」飴忠の親父がそう思った時でした。すると、いつもの様に戸を叩く音がして「飴を一文おくれ・・・」と言い飴を受け取ると去っていくのでした。
雨に濡れていない女を不思議に思った親父は去っていく女の跡をつけていくと、浄土寺の前でスーッと消えていきました。
次の日、飴忠の親父は浄土寺を訪れ、狐か狸の退治を申し出ました。
「度胸を据えてみなされ、見失う事もなかろう」お坊さんは飴忠の親父にそう言いました。
その夜、飴忠の親父は飴を買いに来た女の跡をお坊さんに言われた通りに度胸を据えて追っていきました。
すると女は浄土寺の裏手にある無縁塚のある墓の前でスーッと吸い込まれていきました。
「ゆ、幽霊じゃ・・・」飴忠の親父は驚きましたが、後からお坊さんがやって来て「やはりそうじゃったか」と何か含みげに言いました。
親父が墓の前で耳を澄ましてみると赤ん坊の泣き声がしました。墓を掘り返してみると樽の中には元気に泣き叫ぶ赤ん坊と死んだ母親と思われる女がいました。
葬られている女は5日前に浄土寺の門前で行き倒れになった身重の女巡礼でした。
死んだ後に墓の中で子を産み我が子を育てるために幽霊になって毎晩、飴忠に飴を買いに来ていたのです・・・。
その後、女の子供は飴忠の家族に引き取られ隔てなく育てられていきました。
最初は怖さがあったけど、最後まで見ると悲しい切ない話だった。銭の姿に化けた葉を受け取っても怒らない飴忠の親父の優しさも良かった。女は飴忠の一家であれば我が子を引き取って育ててくれると思い、毎晩飴を買いに来て訴えていたのかも知れない。
幽霊祭
放送時期:1982年07月03日
話の舞台:山口
作 画:若林常夫
声 優:常田富士男
[あらすじ・感想]
昔、下関の観音崎という所に一軒の海産物問屋がありました。
海産物問屋の夫婦は仲が悪く、顔を合わせば大げんかで娘の菊も心を痛めていました。見かねた菊が家を飛び出し両親がなんとか仲直りをして欲しいと願うのでした。
そんなある日の事、お菊は早朝の暗いうちから人気のない寺へと出かけて行きました。
「父と母が1日も早く仲がようなります様に」
話を聞いた和尚さんも菊を励ましました。
それからというものの菊のお参りは毎日の様に繰り返されましたが、両親の仲が良くなる事はありませんでした。
梅雨のある日の事、菊はついに病で倒れてしまいました。和尚さんが見つけた時にはもはや歩ける状態ではありませんでした。菊の容態は悪く、あらゆる治療も効き目がありませんでした。
菊は心配する両親の前で両親が仲直りする事を必死に訴えました。
梅雨も明け夏のある日の晩、菊は和尚の前に幽霊となって現れました。
「長い事お世話になりました。私はいよいよあの世に参る事になりました」
心残りがあるという菊の霊は未だに仲が悪い両親の事を和尚に託し消えていきました。
しばらくすると和尚の前に菊の死を伝えにきた両親の姿がありました。娘の死を哀れむ両親に和尚はお菊の幽霊の事を話し不仲な両親を戒めたのでした。
両親想いの娘が命を落とした悲しいお話。娘には祈る事と和尚に相談する以外になかったのだろうか。娘の訴えに早く気づいて仲直りしてたら・・・と両親も悔いたに違いない。お菊の幽霊が現れたと言い伝えがある山口県の永福寺というお寺があり、寺には今もお菊の霊が描かれた掛け軸があるという。
もの言わぬお菊
放送時期:1992年09月26日
話の舞台:長野
作 画:上口照人
声 優:常田富士男
[あらすじ・感想]
昔、北信濃の事、お菊という幼い娘がいました。
お菊は流行り病にかかりいく日も高い熱にうなされておりました。日が経つに連れて症状が酷くなって命も危ぶまれる状態にまでなってしまいました。
「なんぞ欲しいものはないか?」 母は先も長く無い娘の願いを聞いてやるつもりで聞きました。
「赤いまんま食いてえよお」
それはお菊がこの世で知っている唯一のうまい食べ物だったのです。以前の祭りの日に食べた「小豆まんま」をお菊は忘れてはいませんでした。
それを聞くなり父は家を出ると一握り小豆を持って夜遅くに帰ってきました。小豆まんまを食べたお菊の容体はみるみる良くなりました。
ある日、すっかり元気になったお菊は外で鞠をつき歌っていました。
「赤いまんま食べた、小豆まんま食べた」すると一人の村役人が目の前に現れました。
「お前、小豆まんま食ったんじゃな?」
お菊は村役人から逃れるように父と母の元へ走って行きましたが、後を追ってきた村役人は有無を言わさず父を連れて行きました。
父は赤いまんまを食べた事は外で言うのではないと言っていたのですが、幼いお菊は元気になって嬉しくてつい歌ってしまったのです。
実は病に苦しんでいる娘に小豆まんまを食べさせてあげたかった父でしたが小豆はおろか米一粒もありませんでした。そうした事から父は地主の蔵から小豆と米を盗んでいたのでした。
父が小豆を盗んだという噂は村中に広まってしまいまいました。
あれからというものの梅雨の大雨で犀川の久米路橋はまた崩壊してしまいました。
毎度崩壊する橋に頭を悩ませた村の衆は人柱が必要だと提案しました。人柱とは生きたままの人間を橋杭の下に埋めて生贄にする事です。
そしてお菊の父は罪を犯した事から村人の総意で人柱に選ばれてしまったのです。
お菊は抱き止める母を振り解いて父の元へ走って行きましたが、父が既に生き埋めにされたのを見たお菊は泣き崩れてしまいました。あまりの悲しみでこの日を境にお菊は押し黙ったまま成長していき村人達もまたその姿に心を痛めていました。
15歳になったある日、お菊は薪(たきぎ)を広いに山に行くと、銃声と共に一羽のキジがお菊の目の前に落ちてきました。
キジを抱きかかえたお菊は言いました。
「お前も鳴かなかったら、撃たれはしなかった。おら口で歌ったばっかりに、おっとおが人柱にされただ」
ちなみにこの作品は「キジも鳴かずば」のリメイク作品です。口は災いの元とは違うけど、意識なくついしゃべってしまった事がきっかけで悲劇を生んだ話。人と話せなくなったのも小豆まんまを食べた事を喋らなければ父は死なずに済んだという自責の念に襲われたからというのと、事件以降人と話すのがトラウマになってしまったのだろうと思う。お菊が死んだキジを見つめて「小豆まんまの歌」が流れ幼少期を思い出すシーンは凄く切ない。
ねがいの戒名
放送時期:1992年08月29日
話の舞台:宮城
作 画:後藤孝宏
声 優:常田富士男
[あらすじ・感想]
昔、宮城県の岩沼、千貫南長谷(せんがんみなみはせ)という所に鷹硯寺(ようけんじ)という古いお寺がありました。
住職の和尚は大変良くできた人物で誰からも慕われていました。
ある秋の夕方のこと、山寺の鐘がなった時刻に和尚の元に近くに住むお菊がやってきました。お菊は重い病にかかっていたが少し良くなったため、元気なうちにありがたい戒名をもらいに来たというのでした。
戒名とは死んだ者が与えられる名前で本来は生前にもらうものでした。
戒名をもらったお菊はお礼を言い和尚さんの方を見てにっこり笑った後、すーっと消えていきました。
「はて、どうした事か、変じゃな」
和尚はなぜこの時間に戒名を貰い、去り際に消えていったのか不思議でなりませんでした。
そこで和尚の脳裏に昔の記憶が蘇ってきました。お菊は幼少期の頃から和尚を慕っており、自分がもし先に亡くなる事があれば和尚に戒名をもらいお経を唱えてもらいたいと願っていました。
それから夜も更けしばらく経った頃、和尚の元に庄屋の若い男がやってきてお菊が先ほどなくなったと伝えに来ました。和尚は慌てて駆けつけると、既に息を引き取ったお菊がいました。
両親の話によると夕方の山寺の鐘がなった頃に息を引き取ったというのでした。
何やら思いついた和尚さんはお菊の枕の下に手をやって見ると、和尚にもらった戒名が書かれた紙がありました。
和尚は思いました、戒名を貰いに来たお菊はやはり幽霊だったのかと。
「信心深い娘よのお、世の中無情よのお」
和尚さんはそう言って亡くなったお菊にお経を唱え、しめやかに通夜が営まれました。
亡くなった若い娘が死んだ時刻に和尚の元へ現れるという設定は「幽霊祭」と同じだなと思った。信心深い娘が和尚や両親より先に亡くなった頃、幽霊になってまで戒名を貰いに来たというのが切ない。また和尚の回想シーンの中のお菊は和尚より先に自分が死ぬ事を予感しているかのようだった。和尚が「信心深い娘よのお、世の中無情よのお」と言った場面が最もしんみり来る場面だと感じた。
笹無山
放送時期:1992年02月15日
話の舞台:岡山
作 画:上口照人
声 優:常田富士男
[あらすじ・感想]
昔、備前国の藤戸の寂しい漁村に母と息子二人で暮らす親子の漁師が住んでいました。
息子の与助は大変な孝行息子で母を助けては毎日漁に出ていました。
ところがこんな静かだった藤戸の村にも戦の波が押し寄せて来ました。一ノ谷の戦で負けた平家は藤戸の島々に逃げたため、追う源氏は攻める事も出来ず藤戸の村で睨み合ったままになっていました。
戦でこれからどうなるのか不安になりつつも足の具合が良くない母を心配した与助は一人で漁に出るようになりました。
そんな冬の晩の事、雨の中を一人で歩いていた時、目の前に鎧兜を身にまとった武者が現れました。鎧武者は内海について事細かに聞いてきました。
武者が怖いのと根っからの正直者の与助は内海の事を詳しく教えていきました。
断る事も出来ず冬の冷たい海に入り、言われた通り目印の細竹が敵の平家の方に向かってを立てられていくのでした。
「もう漁をしなくてはなんねえ。これで帰らせて下さいませ。」
与助がそう言うと鎧武者はずっと与助を見続けていました。
すると口外されるのを恐れた源氏の侍は刀で与助を後ろから斬ったのでした。
「大変じゃ、与助が源氏の侍に殺された」
朝方、村の漁師仲間から息子が殺された事を聞いた母は慌てて与助の元へ駆け寄りました。
母は一人息子の亡骸を抱き涙の限り泣き続けました。与助を殺したのは佐々木盛綱という源氏の大将というのが分かりましたが母にはどうする事も出来ませんでした。
一方、佐々木盛綱は与助の細竹を頼りに平家の陣に攻め入り勝利を収めました。
「たった一人の息子を憎き佐々木め」
母はそう呟き、何を思ったか裏山に登りました。
「憎き佐々木、佐々木憎い、笹まで憎い、与助を戻せ」
母はそう言いながら笹の葉を掴んではちぎりました。全身が笹で切れて血が出ていましたが、ちぎり続けました。そうして裏山の笹は一本残らず引きちぎられてしまいました。
その後も笹が生える事がなかった裏山は誰ともなしに笹無山と呼ばれました。
源平が争った「藤戸の戦い」は歴史上にあり、佐々木盛綱が藤戸の漁師を殺した話もあったらしい。もし与助が鎧侍の頼みに応じなかったらどうなっていたのだろうか。口封じで殺される事もなかったのだろうか。これから戦をしようとする侍達に出会った時点で不運だった感じがある。山の笹が全て無くなるまでむしり取ったのは本当かわからないが、一人息子を殺された母の憎しみは相当なものだったのだろう。どれだけ罪を償うとしても源氏の侍が犯した罪は償い切れない。
かんざし燈ろう
放送時期:1988年07月30日
話の舞台:広島
作 画:上口照人
声 優:常田富士男
[あらすじ・感想]
昔、広島の尾道にある築島という所には久保明神という明神があり妙な噂がありました。
ある年の夏、明神様のイチョウの木の所に幽霊が出るというのです。
寺の住職もなんとかせねばと思っていた所、数年前まで浜屋という海鮮問屋で奉公していた女が寺に訪ねて来ました。幽霊が出る事に女には心当たりがありました。
今から7年前の事、浜屋には旦那と息子の清吉がいました。店の旦那である父は豪快な人で、清吉は心の優しい人でした。父は息子に早く店の後継をさせたいと隣町の長者、越後屋の娘を嫁にと考えていました。
ある日、清吉は貧乏長屋に住む娘、お絹と出会いました。
その頃から清吉は父には内緒で度々お絹と会い身分が違いながらも離れられない仲になっていました。やがて二人の事は町中の噂にとなって広まりました。
清吉は父に今付き合っているお絹と結婚したいと申し出ましたが、浜屋の後継に相応しくないという理由で反対されてしまいました。
それからというものの清吉は悩み仕事が手につかなくなりました。
この状況をどうにかしたい父は清吉が好きだというお絹に会う事を決めました。
「もしその娘が先祖様から伝わっておる掟に背く事があれば結婚は許されない」
そう言った父に清吉は「先祖の掟とは何か?」と聞いてもはぐらかすばかりでした。
その後、清吉はお絹にに上等な着物を買ってあげました。そしていよいよ父にお絹を会わせる日がやってきました。
父は挨拶するお絹を見ていると髪に「かんざし」を挿していない事に気が付きました。
「かんざしを挿していないんじゃ話にならん」そう言って父はお絹との結婚を断りました。
父曰く、かんざしを挿していない者は浜屋の掟に背くという。そう言って父は呼び止める清吉にも構わず部屋を出ていきました。
泣き崩れたお絹はその後 海の近くで身を投げて命を絶ちました。
これを知った清吉もお絹の後を追い同じ場所で身を投げて命を絶ちました。
この話を聞いた住職と町の人は、お絹さんが身を投げたイチョウの木の横にかんざしの形をした燈ろうを建てる事になったというのです。
かんざし燈ろうは今も築島の久保明神にあるという。旦那がいう浜屋の掟を清吉に言わない所を見ると、お絹に会うのは形だけで最初から結婚を反対するつもりだったのだろうか。それともあえて言わないようにして後継の嫁の身なりを見定めようとしていたのか。かんざし一本で結婚を反対されるなんて清吉もお絹もやり切れないことだろう。
鵜飼いものがたり
放送時期:1979年07月28日
話の舞台:山梨
作 画:前田実
声 優:市原悦子
[あらすじ・感想]
昔、山梨の石和(いさわ)に一人の旅のお坊さんがやってきました。
お坊さんは安房(あわ)の清澄寺を出て以来今日まで満足な宿で寝ていませんでした。坊さんは村の家々に泊めてくれないかと尋ねましたが、どこも断られてしまいました。
この村は夏にも関わらずどの家も戸を閉め住民もひどく怯えている様子だったのです。不思議に思った坊さんは村人に尋ねてみたところ、夕べになると川下のお堂から火の玉が飛んで来るというのでした。また男の叫び声が聞こえて船を漕ぐ音も聞こえると言い鵜飼いの様な格好をした者が家を一軒一軒恨めしそうに周って歩くというのです。
何か訳があるのではないかとお坊さんが聞くと「お堂だけはとまるな」と言い残し村人は去って行きました。村人の言う事が気になったお坊さんはその夜お堂に泊まる事にしました。
夜も更けてきた頃、一人の男の幽霊がお坊さんの目の前に現れました。困っている霊を見て坊さんが尋ねると男は生前の出来事を話しました。
この村では石和川での漁が禁じられていました。誰か一人でもこれを破ると村人全員が罰を受けなければいけませんでした。男は少し離れた所に住んでおり耳が遠いという事もあってこの事を知りませんでした。
ある日、石和川で漁をしている所を村人に見つかった男は村人の総意で川に放り投げられ溺れて死んでしまったというのです。
自分にも非があると思っている男でしたが成仏できないでいるというのでした。
男はそう語り坊さんに成仏させてくれないか頼んできたのでした。
「わかりました、御仏の力にすがってなんとかしてみましょう」そう言ってお坊さんは快く引き受けました。そうして男は生前行なっていたという鵜飼いをお坊さんに見せて消えていきました。
次の日、お坊さんは河原で小さい石を沢山拾い上げ一つ一つに経文を書き込み「南妙法蓮華経」とお経を唱えました。
夜になってもひたすら石に経文を書いてはお経を唱えていきました。どこからか男の泣き声が聞こえましたがお坊さんは手を止めませんでした。
次の日も一日中、書き続けてはお経を唱えました。そしてその日の夜、やっと最後の一文字を書き上げました。
「南妙法蓮華経 南妙法蓮華経 南妙法蓮華経・・・」
明け方、お坊さんがお経を唱えていると村人達もまた後ろの方で手を合わせていました。
それからというもののこの村では男の霊は現れなくなったといいます。
悲しい、可哀想という感情以外にも村社会の怖さ、人間の怖さが垣間見えた話でもある。男にも非があるにせよ不運が重なり川で溺れ死ぬ事になるなんて酷い話しだし怖い話でもある。昔は一人の罪は連帯責任、多数の意見が正義みたいな風潮があったのだろうか。良いお坊さんに出会えた事がこの男にとっての救いである。
ゆうれいつぼ
放送時期:1987年06月27日
話の舞台:滋賀
作 画:三輪孝輝
声 優:常田富士男
[あらすじ・感想]
昔、滋賀の琵琶湖の東側、小津にお爺さんがいました。
お爺さんは小津の浜から船を出して大津や坂本へ行き来する荷運びの船頭でした。
ある日、お爺さんは坂本へ向かっていましたが、風が強く波も高かったため無理をせず家のある小津に帰りました。お爺さんは帰り支度が終わり一服していた頃、船の舳先の方に若い女の人が立っていました。
「私を向こう岸の坂本まで渡してくだされ」女はそう言って頼み込んできました。ですがこの波の荒れ模様に危険を感じたお爺さんは女の願いを断りました。
「どうしても今夜行かなければなりませんのや。」女は泣きながらそう言いました。
女曰く、この世の者ではないという。「明日は私の四十九日、冥土へ旅たたなければなりまへん」この世に残したやや(我が子)を最後に一目でも見たいがために成仏出来ないと女は言いました。
ややは坂本のお屋敷に取られて養われており、女が命を落としてからも何度か屋敷に足を運んでみたものの、門にお札が貼ってあるおかげで中に入れないというのでした。
お爺さんは話を聞くなり坂本の方向へ船を漕ぎ出しました。先ほどまで荒れていた天気は嘘のように静まり返っていました。
そして女はこれまでの経緯をお爺さんに話しました。
1年前、女は武家の男と身分違いでありながら深い仲になり、その後ややが生まれました。
武家の男も女を嫁にすると約束していました。
ある日武家の家来衆がやってきてお金を投げ捨て女からややを奪い取っていきました。女はややを取り返そうと船に乗って追いかけたものの荒波に飲まれ荷物もろとも湖に沈んでしまいました。
女はそう語った後、湖の底に沈んでいたというお爺さんの壺を返しました。この時お爺さんは二ヶ月程前に女によって船をひっくり返されていた事を知りました。
やがて坂本が目の前に見えてきました。
ややがいるという武家の屋敷の門まで辿り着くとお爺さんはお札を貼がしました。
すると女の霊は屋敷の中に入って行き、四十九日目でやっと我が子に会えました。思いを遂げた女はお爺さんにお礼を言って冥土へ旅立って行ったのでした。
女の霊が返してくれた壺は「ゆうれいつぼ」と名付けて親子の絆を大切にする印として後の代まで残したという事でした。
最初は随分おしゃべりな幽霊だなと思っていたけど話を聞いていくと次第に悲しくなる作品でした。女が武家の男の目にとまってしまった事が悲劇の始まりだった。武家の男が酷過ぎる上に子供まで奪い取られ、女は死んでしまうという悲劇の話。我が子に会えたのは良かったものの、武家の男に何の制裁が下らないのは何ともやり切れない。
雪のなかのゆうれい
放送時期:1982年12月25日
話の舞台:新潟
作 画:吉良敬三
声 優:市原悦子
[あらすじ・感想]
昔、越後の国に原教というお坊さんがいました。
お坊さんは毎年冬になると、雪の積もった村の中を念仏を唱えながら歩いて周るのでした。村を一周りすると魚野川の橋の上に立って念入りに念仏を唱えるのが習慣でした。魚野川の橋は幅が狭く多くの人が足を滑らせて命を落としていたためです。
ある満月の日の夜の事でした、いつもの様に魚野川の橋の上で念仏を唱えていると突然若い女の霊が現れました。
「お坊さま、お願いがあります。」女が悲しそうに言うとお坊さんは話を聞いてあげました。
女は隣村の菊という、夫にも子供にも先立たれ一人になっていました。
ある日、暮らしに困ったので知り合いに相談しようとした所、この橋から誤って落ちてしまい命を落としたというのでした。けれども髪の毛があるがゆえにあの世に行く事が出来ないのでお坊さんに髪の毛を剃って欲しいというのでした。
お坊さんは快く承諾しましたが、橋の上では髪を剃れないので庵(いおり)を案内しようとすると女はいつの間にか消えていたのでした。
翌朝、お坊さんは菊を迎え入れようと朝から準備をしていました。
「ワシには断る事ができん。そんな事をしたらあの女成仏できん」
そしてその日の夜、菊の霊が現れるのを待っていましたが中々現れませんでした。ふとロウソクの火が揺れた頃、お坊さんは突如寒気がしたと思いきや菊の霊が御座の上で座っていました。
不思議なことにお坊さんが一束ずつ切るたびに髪が菊の衣服の中に滑り込んでいきました。お坊さまは髪の消えていくさまを見て「これが女心というものであろう」と思いました。
「剃り終えましたぞ」お坊さんはそう言うと女は頷き、手を合わせて消えていきました。
菊の霊が去ると、御座の上に一にぎりの髪が落ちていました。
春になったある日、坊さんは残りの髪を魚野川の橋の袂(たもと)に埋めて小さな墓を作ったというのでした。
演出的にしっとりとした怖さと悲しさが共存する作品。この話は当初、怖い系の話として候補に入れていたぐらいだった。結果的には悲しい話の方にリストアップした。霊が無言で去りそして無言で出てくるシーンがなんとも言えない不穏な感じになったが、最後は悲しい話としてうまく収まっていったという印象。
雪むかし
放送時期:1989年02月11日
話の舞台:不明
作 画:小原秀一
声 優:常田富士男
[あらすじ・感想]
昔、北国で降り続く雪がまだ本当に白い色ではなかったそうです。
吹雪が舞う冬のある日の事、大きな庄屋さんの所に遠い村から小さな娘が奉公に出されてきました。
娘はよく働きました、朝の荷造りや炊事洗濯は辛かったが村にいる時を思えば楽でした。
ある日、宴会の準備があったので奉公人達が遅い昼食を取っていた所、旅のお坊さんが訪ねてきました。旅のお坊さんは何か食べ物を恵んで欲しいと頼みましたが女将さんは追い払ってしまいました。
それを見ていた娘はこっそりお坊さんの後を追い自分のにぎり飯を差し出しました。そうするとお坊さんは娘に紅い布と鈴を渡して去っていきました。
宴会が終わると世話役の姉さん達は娘一人に後片付けを押し付けてきました。
娘が片付けをしようとした時、坊さんにもらった紅い布が茶碗の上に落ちました。紅い布を拾い上げると茶碗が洗ったかの様に綺麗になっていたのでした。娘は別の汚れた皿を拭いてみるとその皿も綺麗になってしまいました。
そこで娘は思い切って宴会の後を全て片付けてしまいました。
娘が顔に紅い布をあてるとなんと顔が綺麗になっていました。
その話を聞きつけた女将が娘からお坊さんにもらった紅い布取り上げてしまいました。「この布と鈴、おらのとこの飯で貰ったもんじゃ、だからこれはわしが貰っておく」
ある時、女将さんは鏡の前で娘から取り上げた布で顔を拭きました。ところが、女将さんの顔はシワだらけの顔になってしまいました。
その後、気がおかしくなった女将さんにより娘は庄屋から追い出されてしまいました。
「おら、ここを出されたら生きていけねえだ、堪忍してけろ」娘は泣きながら戸を叩いて訴えました。
吹雪が舞う中、鈴を鳴らしながら娘は雪の中を彷徨い続けました。
娘は山里にある自分の家に帰ろうとしましたが、いくつもの山を越えなければならず雪と凍える寒さに耐えなければいけませんでした。
鈴の音がいつの日か段々と途切れていき、やがて娘は雪に埋もれるように力尽きてしまいました。
すると娘が持っていた紅い布から段々と白い雪が広がっていくのでした。
この話は娘が凄くに健気な感じだった。この紅い布は人の心を表す布で拭いた時に綺麗になったのは娘の心が綺麗だったからだと思った。人が貰った布を取り上げた挙句、猛吹雪の中に娘を追い出した女将は鬼畜としか言いようがないと思った。女将以外にもその下で働く女達からも娘が陰で虐められていたのが可哀想だった。
蜘蛛女
放送時期:1984年04月28日
話の舞台:東北地方
作 画:上口照人
声 優:市原悦子
[あらすじ・感想]
昔、小間物の行商をして歩く男がいました。
この行商の男の荷に一匹の女郎蜘蛛が住み着いてずっと旅を共にしていました。
ある日の夜、男は夜中に峠を越えようと歩いていましたが、途中で激しい雨が降ってきたため近くの古びたお堂で雨宿りしました。
一息付いて一服していた時でした。お堂の端の方で一人の若い女が座っていました。
そこで男が声をかけみると「誰かと思って息を殺していましたが、どうやら同じ旅人さんのようで。」と女が喋りだしました。
二人は酒を酌み交わし世間話でもしてすぐに打ち解け一夜を明かすことになりました。
すると男は「さっきから考えていたんだが、姉さんに以前会った様に思えて仕方ないんだ」と言い出すと女の表情が変わりました。
女曰く、男の事は以前から知っており一緒に旅をしていたと言いました。そしてずっと前に男に助けられたというのでした。男には狐、狸の類を助けた事は記憶にありましたが、人助けをした事は今ひとつ思い出せませんでした。
そう言いつつも男は薄々と気づいており、人間では無い事を指摘すると女も半分正体がバレていることを心配するのでした。
「まあ、そんな事はどうでもいい。これも旅の味ってもんだから」男がそう言うと女は思わず以前から男に惚れていた事を告白してしまいました。
「私は旦那に助けられて以来、旦那が好きになってずっと追っかけて旅をしているんですよ」女は酔った勢いで男に言いました。
これを聞いた男も照れる様子を見せると女は三味線を引き出しました。
すると男が思い出した様に言いました。「半年ほど前に大蜘蛛に絡まれた女郎蜘蛛を気まぐれに助けた事がある」
それを聞いた女は一瞬悲しそうな顔をしましたが、またすぐに三味線を引き出しました。
そのうち男はいい気持ちになって居眠りをはじめました。
「旦那さん、私たちには悲しい決まりがあるんです。正体を人に見られたら取り殺すか自分が死ぬしか無い」
女をそう言うと形相が一変、腕から白い糸が出てきて男の首を締め出しました。
「旦那さん・・・やっぱり私に旦那を殺す事なんて出来やしないよ。しょうがないねえ」
女は男を殺す事ができず自分が死ぬ事を決意しました。
「一緒に旅ができて私は楽しい思いをさせてもらいましたよ。いつまでもお達者でいてくださいよ」
翌朝、男が目を覚めると床に一匹の女郎蜘蛛が死んで転がっていました。この時男は酔った勢いで余計な事言ってしまったのがいけなかったのではないかと悔やみました。
その後、男は蜘蛛を弔い里を目指して歩いて行ったのでした。
一度は助けて貰うも最後は命を差し出した切ない話だった。旦那もお糸もお互い物腰が柔らかく気さくな感じだった。お糸が旦那の首を絞めている時の表情がまるで人間のそれではなかったので怖かったが、殺せないって分かると急に切なくなった。旦那もお糸も酒に酔った勢いで余計な事を喋ってしまったばかりにどちらかが死ななければいけなくなった。雨が降らなければ、人間に化けなければ、余計な事を言わなければと色んな偶然が重なった悲しい話。
お萬の火
放送時期:1986年05月31日
話の舞台:岩手
作 画:上口照人
声 優:常田富士男
[あらすじ・感想]
昔、岩手のある村にお萬という娘がいました。
お萬は身寄りの無い一人暮らしで飼っている牛を可愛がっていました。
お萬は牛に荷車を引かせ小さな荷運びを請け負っていました。
ある時、村には雨が降らず作物が枯れて村人達の暮らしが苦しくなり、各地で作物を盗まれる被害が相次ぎました。お萬も飼っている牛も僅かな食べ物と水を啜って暮らす日々が続きました。
そんなある日、飼っている牛が暑さと空腹で狂い突然走り出しました。
牛は水を求めて岩場の下の水面に身を乗り出すと足場が崩れてしまい「うしくい渕」へ落ちてしまいました。落胆していたお萬でしたが、村の言い伝えでうしくい渕に落ちた牛は山を超えた先の淵で生きていたという伝説を思い出しました。
そしてお萬は希望を頼り山へ向かって歩き始めました。
ろくに食べていなかったお萬は山を越すどころか村はずれで腹が減って倒れてしまいまいました。
腹が減ってどうにもならなかったお萬はそばにある大根を引き抜いて食べた所を監視していた村人達に見つかってしまいました。
お萬は許しを乞いましたが気が立っている村人達はお萬を縛り重りを付けてうしくい淵に沈めてしまいました。
それから何日かして雨が降り始め村は大豊作になり、村人達にも笑顔が戻って村祭りが盛大に行われました。
その日の夜、ある男が酔いを覚ますためにうしくい淵のある川辺にやってきました。すると鬼火とともにお萬の霊が男の目の前に現れたのでした。
この出来事を聞いた村人達はお萬に力を貸してやるどころか、酷い仕打ちをした事を悔いてうしくい淵で供養をしました。
しかし余程恨みが深かったのかその後も鬼火はしばらく現れたというのでした。
身寄りがなく可愛がっている牛までいなくなったので焦燥し冷静な判断が出来なかったのだろう。あと少しでも待てば雨が降って危機が乗り越えられたのかもしれないが荷運びにとって飼い牛は仕事のパートナーでもあったから僅かな可能性にかけて山を越えるという選択をしてしまったのかもしれない。しかし、大豊作になった途端に村人達の変わり様が怖い。
深んぼのすげがさ
放送時期:1987年05月30日
話の舞台:茨城
作 画:柏木郷子
声 優:常田富士男
[あらすじ・感想]
昔、ある農家のところに嫁いだ娘がいました。
嫁さんは新しい菅笠(すげがさ)をかぶって婿と毎日畑仕事に励んでいました。
まだ若い嫁さんは家の者より仕事が遅くそれを見ていた姑は嫁さんにいつも小言を言っていました。それでも嫁さんは仕事を頑張り、帰るのはいつも日が暮れてからの事でした。
それからいくつかの日が過ぎて田植えの季節がやってきました。
嫁さんは毎日早くから一家4人の飯を作り、お天道様が顔を出す頃にはみんなと一緒に田んぼに入って苗を植えていました。日が沈んで皆んなが帰っても嫁さんは一人田んぼで苗を植えていました。やっと家へ帰ってくるや、嫁さんは一家4人の夕飯の支度をしていました。
そして皆んなが寝床に入った頃になってやっと嫁さんが冷めた風呂に入る事ができるのでした。
嫁さんが浴槽に入っていると婿さんが風呂に入ってきて薪火を炊いて湯を温めてくれました。その後、婿さんは黙って風呂から出て行きましたが、嫁さんの目はいっぱい涙を浮かべていました。風呂の湯はみるみる温かくなり嫁さんは仕事の疲れが取れていきました。
そして田植えの最後の日、残す田植えは「深んぼ」だけをなった頃には日も沈み、親達は先に帰っていきました。
深んぼとは昔沼だった場所で背丈よりも深く大変危険なため、底に丸太を縦横何本も置いてその上を歩いて作業しなければいけませんでした。
婿さんは深んぼの底に丸太を置き終わる頃、嫁さんは風呂で優しくしてくれた婿さんを思いだしていました。そして婿さんの心配をよそに残った田植えは全て一人でやると言いました。
嫁さんは心の中では幸せでいっぱいでした。
夜も更け、先に帰った婿さんはぬるくなった風呂を温めては遅い嫁さんの帰り心配そうに待っていました。
田植えもやっと終わりそうになり嫁さんが最後の苗に手を伸ばした時、丸太から足を外してしまった嫁さんは深んぼの中に沈んでしまいました。
帰りを待っていた婿さんでしたが心配でとうとう我慢が出来ずに嫁さんのいる深んぼ目掛けて走って行きました。
すると深んぼには月夜に照らされぴくりとも動かない菅笠が浮かんでいたのでした。
嫁さんは婿さんがぬるくなった風呂を温めてくれた事が余程嬉しくて仕事の励みにもなったのだろう。深んぼは慣れている婿さんに任せておけば良かったものの、張り切り過ぎたのかもしれない。まだ仕事が慣れない嫁に対して毎日小言をいう姑はどうかと思うが婿さんも嫁さんのそばに付いていたら良かったのにと思った。
まんが日本昔ばなしの悲しくて切ない話の感想
まんが日本昔ばなしの悲しい、切ない話をまとめてみましたが、全体的な感想としては幽霊が登場する心霊系の話が自然と多くなっています。
また、まとめた作品を2つに分けてみると「少し救われた話」と「救われない話」になると思います。「少し救われた話」は「幽霊飴」「ねがいの戒名」「鵜飼いものがたり」「ゆうれいつぼ」「雪のなかのゆうれい」でこれらの作品は不幸によって命を落としこの世に未練が残った霊が誰かに助けを求めるという内容が多かったと思います。
「救われない話」は「もの言わぬお菊」「幽霊祭」「笹無山」「かんざし燈ろう」「雪むかし」「蜘蛛女」「深んぼのすげがさ」「お萬の火」でこれらの作品は主要な登場人物が悲劇に遭って命を落とすか、悲しい過去を背負って生きていくかどちらかの展開になっていきます。
個別で印象に残っている話は「もの言わぬお菊」で幼い時に自分のために家族を失い大人になってもその悲劇をずっと背負って生きているという話で、どの作品よりも哀愁が漂う雰囲気が出ていて切なかったですね。
悲しい、酷いと思ったの作品は「雪むかし」で幼い子が遠い所から奉公に出された挙句に大人達に酷い仕打ちをされ、女将には坊さんから貰った大切な物を取り上げられ最後は死んでしまうという周りの登場人物も含めて一番可哀想と思える作品でした。